単純に会社四季報 ワイド版を解明
まえがきわたしはバカがきらいである。
なぜなら、バカはバカだからである。
と、厚顔にも公言するくらいだから、当然わたしはバカではない。
と、自分で否定するヤツにかぎってバカだという説もあるが、それでもバカではないと主張する。
二回否定するヤツもまたバカだという説は聞いたことがないから、一応これでわたしの非バカは証明された、と納得していただきたい。
五十数年も生きていると、さまざまなバカに遭遇するものである。
だが幸いなことに、バカのかたまりという全身バカには意外と出会わなかった。
そこそこの部分バカ、呉智英のいう「折々のバカ」、時々発症する季節バカには随分と出会ったが。
省みて、わたしもかつてはその一員であることはあったが(三十歳まで。
しかし広く世の中を見渡してみると、感動的なことに、正真正銘のバカはやはりいるものである。
長ずるにつれて、全身バカも少なからず存在するのだ、ということもわかった。
本書は、そのようなまれに見るバカ(だけではない)の生態に関する物語である。
バカでないわたしは当然、自分のことを自分で「おれはバカだから」という男(女も)がきらいである。
たとえばあの田原総一朗。
「朝まで生テレビ」などを見ていると、番組中最低一回は「わたしは頭が悪いから……」というのである。
ちぇっ、余裕があるんじゃないか。
そこそこ頭がいいに決まっているのだが(ただし、政治頭)、こういう人間はやはりバカだと思う。
小金をもった人間の謙遜と同類でいやらしいのである。
「もうバカばっかしやっていますよ」という男がきらいである。
ほんとに「バカばっかしやって」いるからである。
本人は、こんなに不真面目なんだぞ、器がでかいだろう、と誇らしげなのだが、わたしは額面どおりにしか受けとめてやらない。
まちがっても気持ちなんか察してやらずに、「うん、おまえは文句のつけようのないバカだな」と思うのである。
「おまえはバカなんだよ」と威張るバカもよくない。
「どうだおれは」「どうわたしは」というヤツも願い下げである。
「威張る」というその性根じたいにおいてすでにバカだからである。
バカとはだれのことか。
とりあえずは右のような人間がその一部だが、一ロでいうのはなかなか困難である。
バカもなかなか複雑怪奇で多種多様だからだ。
ただ、バカとは、モノを知らないということをかならずしも意味ルない。
なるほど、『新明解国語辞典』(三省堂)には「記憶力・理解力の鈍さが常識を超える様子。
また、そうとしか言いようの無い人」とある。
地図上で北京を指差せといわれて、ギリシャあたりを指差したりする女が実在するが、これはたしかにバカといえばバカであろう。
しかし正確には、むしろ無知というべきである。
だがこんな単純バカ(無知)は本書の対象とする「バカ」ではない。
モノを覚えればそれですんでしまうだけの話だからである(しかしこの種のバカが身のほどを知らずに自己主張するときは、当然本書の対象となる)。
本書での「バカ」は、学歴なんかとはまったく関係がない。
性別も年齢も、収入も地位も関係がない。
うれしいことに、一流大学をでて一流企業に勤めていて法外な収入があって地位もありながら、掛け値なしの「バカ」という者はいるものである。
悲しいことに、学歴も収入も地位もないけど、どこから見てもやはりバカ「としか言いようの無い人」も当然いるのだが。
本書は「バカ」の定義にこだわらない。
一方的にわたしが、こいつは「バカ」だと思った人間が「バカ」なのである。
東京大学の教授であろうと外務省の職員であろうとバカはバカ5である。
高卒で中小企業に勤めていようとこれまたバカはバカである。
ただあえていうなら、本書で「バカ」呼ばわりするバカは自分だけが後生大事の「自分」バカのことである。
自分が正しいと信じて疑わぬバカ、自分から1ミリも外にでようとしないバカ、恥を知らないバカ、自分で考えようとしないバカ、のことである。
すべてのバカはこの「自分」バカに通じている。
他人のことを「バカ」ということはむつかしいものである。
それ以前に、バカを探すのがまず一苦労である。
頭の先から爪先まで「バカ」がぎっしり詰まっている全身バカなら、コトは簡単である。
頼まれなくても、「わたしはバカです」という札を首からぶら下げて、向こうから歩いてきてくれるからだ。
困難なのは本質的バカを見つけることである。
一見、立派で優しくて謙虚で頭が良くて、という外側をはいだ後の、本質的なバカはなかなかに巧妙である。
それを見逃さずに書くのである。
こんな高等な作業は、とてもバカにできることではない。
他人を「バカ」呼ばわりすると、きまって「じゃあそういうテメエは何様だ」と反撃される。
本心からいうが、わたしはまったく「何様」でもない。
偉くも立派でもないふつうの男である(という書き方でもう、「何様」ぶってるといわれるだろうが)。
そういうふうに反撃してくる「お前こそ何様だ」といい返したいところだが、そうはいわない。
「そういうお前は、何様という言葉を覚えているだけの、ただのバカか」といい返したいだけである。
わたしは上から見下して「バカ」といっているのではない。
下からでも、横からでも、うしろからでもない。
正面のおなじ高さからいうのである。
本書では、有名バカと無名バカ、全身バカと部分バカ、おとなのバカと子どものバカ、ようするにすべてのバカ諸君たちに集まってもらっている。
しかし、「バカ」の生態とその現状を書いて、いったいなにをしようとしているのか。
バカを矯正しようなどとは夢にも思わない。
できるはずもない。
バカになにをいっても無駄である。
なぜなら、他人の言葉など右の耳から左の耳に素通りしてこそバカだからである。
内省するバカなど語義矛盾も甚だしい。
バカほど強い者はないのである。
だれがいったか知らないが、「バカが幸福になると手がつけられない」というのは真実である。
そのような実例をいくつか目撃してきた。
現在の日本は、この「幸福になったバカ」の天国である。
「バカ」であることが積極的な価値であるかのような倒錯がまかりとおっている楽園である。
だからといって本書がまさか憂国の書であるはずもない。
はっきりいって、本書はなんの役にも立たないのである。
ただこの平成不況の世に、有名無名とりまぜて、なんと諸君たちはバカ者であることか、ということをいうだけである。
あなたの腰が砕けても、ほんとそれだけなのだ。
ひとのバカを見て、自分のバカを治すきっかけにもならない無用の用も、ない。
けれど、これは恥ずべきことではない。
有用を装って、その実、無用のバカ本にくらべればはるかにましである。
ただひとつだけつけ加えておきたい。
本書を通読されたあと、もしかしたらあなたに、なぜかはわからないが、生きる勇気みたいなものが湧いてくるかもしれない。
心もホカホカしたりして。
もしそうだとしたら、それはバカの熱気によるものである。
語の、宣ハの、本来の、正当な意味における「バカカ」によるものだ。
もう正確に覚えていないのが情けない。
かのヘーゲルがたしか「本質は現象する」といったはずである(どの本だったかも忘れた。
ざっとあたってみたが見つからなど。
また、こうもいった。
「現実的なものは理性的であり、理性的なものは現実的である」(これは『法の哲学』)。
ヘーゲルがでたからといって心配ご無用。
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